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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)305号 判決

控訴人

喜津木露

右訴訟代理人

長岡邦

被控訴人

三利建設株式会社

右代表者

斉藤利喜

右訴訟代理人

高木義明

ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一昭和三六年一〇月当時本件土地の地上には本件旧建物が存在し、東田(当時の姓富所)恵子が本件土地及び本件旧建物の所有権を同年同月一八日取得したのち、両者を共同担保として、株式会社東京相互銀行のために債権元本極度額三五〇万円の根抵当権を設定し、昭和三七年四月二三日根抵当権設定登記を経由したことは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉によれば、東田恵子は、昭和三七年七、八月頃本件旧建物を取り壊し、本件土地上に本件現建物を新築したことが認められ、東田が本件現建物につき同年一〇月二〇日所有権保存登記を経由し、次いで黒田広雄のために本件現建物と本件土地とを共同担保として抵当権を設定し、昭和三八年七月二日その旨の登記を経由したことは当事者間に争いがない。

また、本件土地は、右東京相互銀行による根抵当権実行、競売の結果、控訴人が昭和四一年六月二八日競落によりその所有権を取得し、同年八月一日その旨の登記を了したこと及び本件建物は、前記黒田広雄の抵当権実行、競売の結果、被控訴人が競落したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被控訴人は、昭和四五年四月一六日本件建物につき競落許可決定を受け、競落人として、同年七月九日既に支払いずみの保証金三五万円をあわせて競落代金三五〇万円を完済したことが認められるから、同日本件現建物の所有権を取得したものというべく、被控訴人が同年同月一三日その旨の登記を経由したことは当事者間に争いがない。

以上の事実関係のもとにおいて、本件土地に対する根抵当権設定の時に存在した地上の本件旧建物と土地に対する競売の行われた時に存した地上の本件建物とについては、新旧の別こそあれ、同一土地上において改築され、建物所有者も前後同一人であり、本件土地につき根抵当権が設定された時も、競売が行われた時も土地及び建物の所有者は同一人であつたのであるから、土地につき競落がなされて土地の所有者と建物の所有者とが別人となつたときに建物の所有者はその土地について法定地上権を取得したというべきである。

二―三《省略》

四さらに、控訴人は、控訴人が競落によつて本件土地の所有権を取得したのち、当時本件現建物を所有していた東田恵子との間で本件土地につき普通建物所有を目的とする賃貸借契約を締結し、しかもその賃貸借契約が賃料不払により解除され、被控訴人はその後競落により本件現建物の所有権を取得したのであるから、法定地上権は成立しない旨主張する。既に明らかにしたとおり、同一人がその所有の土地及び地上建物につき抵当権を設定したのち建物が改築され、前記土地が抵当権の実行により競売され、他人に競落されたとき、改築建物の所有者は、競落により土地の所有権を取得した新土地所有者に対し改築建物所有のため、当初の建物の所有に必要な範囲で、当初の建物の耐用年数に応じ前記土地につき法定地上権を取得すると解すべきであり、前叙のとおり本件旧建物がもし取り壊されなかつたとすれば、本件土地につき根抵当権の実行された昭和四一年夏までに朽廃したであろうことを認め得ず、本件土地が本件旧建物所有のために必要とする範囲を超える事情の認められない本件についてみれば、改築された本件現建物の所有者である東田恵子は控訴人が昭和四一年八月一日本件土地につき競落により所有権を取得し、その旨の登記を経由したとき、本件現建物所有のため本件土地につき法定地上権を取得したというべきである。そして控訴人の前示主張が法定地上権者と土地の取得者との間に建物所有の目的で土地賃貸借契約を締結する際、法定地上権者がその権利を放棄したから、後に当該建物を競落して所有者となる者も法定地上権を取得し得ないとの趣旨であり、法定地上権者である東田恵子が自己の法定地上権を放棄したと認められるとしても、これによる効果は、放棄した本人に限るものであると解すべきであつて、右放棄の一事により後に建物を競落取得した者に法定地上権を取得させないことは民法三八八条の趣旨に反し認むべきではないといわなければならない。また、控訴人の前示主張が控訴人と東田恵子との間の賃貸借契約が解除されたから、法定地上権も消滅し、従つてその後に建物を競落取得した者は法定地上権を取得するに由ないという趣旨であつたとしても、賃貸借の解除は法定地上権の消滅原因とは認め難いから右は主張自体失当といわなければならない。してみれば、控訴人が本件現建物所有者であつた東田恵子と本件土地につき控訴人主張のような賃貸借契約を締結し、また右契約が右東田の責に帰すべき事由により解除されたとしても、それにはかかわりなく東田の有する法定地上権は存続し、本件現建物についての抵当権が実行され、被控訴人が右建物を競落してその所有権を取得したとき、被控訴人はこれとともに本件土地につき東田の有していた右建物所有のための法定地上権をも取得したというべきである。

五他に被控訴人の前記法定地上権の取得を妨げるべき特段の主張はなく、右法定地上権の存続期間がその後満了したことも認められないところ、控訴人が右法定地上権設定登記に協力しないので、被控訴人は仮登記仮処分命令を得て、昭和四五年一一月二八日その主張どおり地上権設定仮登記を経由したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば右仮登記の内容は、原因昭和四五年四月一六日競落許可に基づく法定地上権設定、目的木造建物所有、権利者被控訴人となつていることが認められる。ところで、被控訴人が昭和四五年七月一三日本件土地の上に存在する本件現建物につき所有権移転登記を経由していることは前叙のとおりであるから、法定地上権の登記がなくても、その取得を第三者に対抗し得るのではあるが、前記仮登記は、その原因において権利変動の過程を如実に示しているものでないとはいえ、前叙のとおり被控訴人に先立つ地上権者の東田恵子は、本件現建物につきすでに抵当権実行の結果その所有権とともに地上権を失い自己のために法定地上権の登記を受ける利益がなくなつたというべきであるから、右東田の同意がないまま中間を省略して直接被控訴人が地上権の設定を受けたとの内容の前記仮登記を無效とする必要はなく、現に本件土地につき本件現建物所有のための法定地上権を有する被控訴人は真実の権利状態に合致させるため前記仮登記に基づいて控訴人に対し本登記を請求する訴は許されると解するのが相当である。

六《省略》

(吉岡進 園部秀信 兼子徹夫)

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